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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)267号 判決 1975年12月26日

主文

理由

上告代理人酒井武義、同復代理人新谷勇人の上告理由第一点及び第三点について

原審の確定した事実によると、(一)上告人は、被上告人から昭和四一年三月二四日三〇〇万円、同年六月頃五〇万円を、いずれも利息及び遅延損害金日歩一五銭、弁済期日同年九月三〇日とする約定で借り受け、同年六月三〇日右債権担保のため上告人所有の第一審判決別紙物件目録記載の土地、建物(以下「本件土地」、「本件建物」といい、一括して「本件不動産」という。)につき、上告人が弁済期日に右元利金を支払わないときは、その債務の履行に代えて被上告人が本件不動産の所有権を取得することができる旨の代物弁済予約及び抵当権設定契約を締結した、(二)その際、上告人から被上告人に対し、右代物弁済予約完結に伴う所有権移転登記手続用として白紙委任状、印鑑証明書を交付するとともに、本件土地の占有と簡易旅館ホテル有楽(本件建物)の営業施設、器具及びその営業権を被上告人に引き渡すことを承諾する旨の記載のある承諾書を差し入れた、(三)本件不動産につき同年七月二日付で右代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記及び抵当権設定登記がされた、(四)本件不動産には、第一順位の担保権として訴外大同信用組合を権利者、上告人を債務者とする元本極度額二八〇万円の根抵当権設定登記及び代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記があり、被上告人の前記抵当権ないし仮登記は、第二又は第三順位のものであつた、(五)被上告人は、上告人が弁済期日に元利金を完済しないため、同年一〇月二一日右白紙委任状及び印鑑証明書等を用いて本件不動産につき同月一七日付で前記仮登記の本登記を経由し、同月二四日口頭により上告人に対し代物弁済予約完結の意思表示をした、(六)上告人は、本件建物を利用して簡易旅館ホテル有楽を経営し、訴外中江礼一を管理人としてその家族と共に右建物に居住させ、宿泊客からの料金徴収、建物の管理等に当たらせていたところ、被上告人は、同月二八日上告人と中江に対し、右代物弁済予約完結により本件不動産の所有権は被上告人に移転したので、以後、本件建物による簡易旅館営業は被上告人の経営とする旨を告知した、(七)そこで、中江は、同日以後、被上告人の代理人として本件不動産を占有し、かつ、同人のために簡易旅館の管理に当たる旨を言明して上告人が本件建物内に立ち入ることを禁止し、徴収した宿泊料を被上告人に交付した、(八)大同信用組合は、第一順位の抵当権に基づき本件不動産の競売を申し立て、昭和四四年一〇月二六日被上告人がこれを競落し、その所有権を取得したというのである。

右事実に照らすと本件代物弁済予約は、いわゆる仮登記担保契約であつて、その趣旨とするところは、本件不動産の取得自体にあるのではなく、その金銭的価値の実現によつて債権の排他的満足を得ることにあるものと解されるから、債務者である上告人が弁済期日に債務を履行しないときは、債権者たる被上告人は、予約完結の意思表示により目的不動産の処分機能を取得し、清算のためにする換価手続の一環として上告人に対し仮登記の本登記手続及び目的不動産の引渡を求めることができるところ(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁参照)、被上告人は、上告人が債務を履行しないので予約完結権を行使して本件不動産の引渡を受けるとともに、債務不履行のときは簡易旅館の営業権をその施設、器具ともども被上告人に引き渡す旨の特約に基づき、昭和四一年一〇月二八日上告人及び簡易旅館の管理人中江に対して右営業権の引渡を求め、中江は、これに応じて同日以後被上告人のために簡易旅館を管理し、上告人の立入りを禁止する旨を言明したことは前記原審確定のとおりである。そうすると、本件不動産の占有及び簡易旅館の営業権は、終局的には債権関係清算目的のためではあるが、当事者の意思に基づき適法に被上告人へ引き渡されたものと認めるが相当である。したがつて、同日以降本件不動産の競落による所有権取得までの期間、被上告人が本件不動産を占有し、かつ、本件建物を利用して簡易旅館の営業を継続し、その利益金を収受しても(もとより債務の弁済に充当し清算されるべきものである。)、これによつて、本件不動産に対する上告人の所有権を侵害するものではないことが明らかである。また、被上告人に対する本件不動産の占有移転が前記経緯によるものである以上、これが上告人の占有権を侵害することにならないことも多言を要しない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

同第二点について

本件代物弁済予約は、清算を伴う債権担保契約であつて、目的不動産の評価額又は換価額が債権額を超えるときは被上告人はその超過額を清算金として上告人に交付すベき義務を負う趣旨のものであるから、暴利の目的が認められないのみならず、その後本件不動産が先順位の大同信用組合による抵当権の実行によつて競売に付され、競落代金、すなわち本件不動産の換価金によつて各担保権の被担保債権が清算された経緯に照らし、本件代物弁済予約が暴利を目的とし、公序良俗に反するものとは認め難く、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第四点について

所論は、不当利得の成立をいうものであるが、この点は、上告人が原審において主張しないところであつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 本林 譲)

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